顕微鏡下精管精管吻合術(パイプカット後の修復・再吻合・つなげる手術)

パイプカット(バセクトミー)した後は?

バセクトミーしたあとは当然ながら無精子症になります。無精子症とは精液検査で精液中に精子を認めない状態のことを言います。無精子症は大まかに非閉塞性無精子症と閉塞性無精子症に分類されます。非閉塞性とは精巣そのものの精子を作る機能がない、もしくは著しく低下している状態、閉塞性とは精子は作られているが精子の通り道の途中に問題がある場合で、避妊手術後の無精子症は閉塞性無精子症にあたります。

バセクトミー後に起こる変化

アメリカの研究になりますが、バセクトミーをしたあと、6%の方が何らかの理由で修復を試みています[1, 2]。当科を訪れる患者様の理由としては気が変わってお子さんをさらに望む方、一回目の顕微授精で妻の負担が大きかったこと、離婚、子供の死別などがあります。

さらにバセクトミー後に起こる変化として、バセクトミー後疼痛症候群:post-vasectomy pain syndrome (PVPS)があります。バセクトミー後1000人に1人程度の割合で、慢性的な睾丸の痛み、慢性的な精巣上体炎症状を訴える方がいます。これらのような合併症が起こってしまった患者さんに対しても精管再吻合術は効果があると報告されており、当科でも相談のうえ適応としています[3]。

外来受診、入院について

当院ではこの手術を2泊3日の入院で行っています。手術時間はおおよそ3時間半から4時間です。退院後翌日から通常の仕事は可能です。まずは男性不妊外来を受診して頂いて、問診、診察を経て、その日に手術日を決定できます。遠方の方はご予定を頂けたらメールで手術日を決めることもできます。

顕微鏡下精路再建術手術について

この手術は手術用顕微鏡を使用して全身麻酔で行いますので、全国でも限られた施設でしか行われておりません。男性避妊手術後の無精子症に対しては、顕微鏡下精路再建術の中の精管精管吻合術が行われており、当科でもこの方法を用いています。

傷は陰嚢に3-4cmの縦切開が2ヶ所になりますが、数ヶ月経過するとほとんど傷は分からなくなります。まず精管と精管を切り離して、精子の出現を確認します。その後、特殊な固定器具を使用して精管と精管の断端を保持します。次に顕微鏡手術用の細い糸で精管断端を縫い合わせます。合計3層で精菅を縫い合わせて、最後に陰嚢皮膚を縫合します。抜糸は必要ありません

この技術は高い技術力と集中力が要求されます。帝京大学医学部附属病院では一人の術者がコンスタントにこの手術を行っており、安心して手術を受けて頂くことができます

吻合後の精管

 手術成績

開通率(patency rate)と自然妊娠率(pregnancy rate)は個々人により差がありますが、2014年に谷口らにより日本全国の精路再建術のまとめが発表されました。それによると、精管精管吻合の開通率は全国平均で68.9%、自然妊娠率は全国平均で27.5%です[4]。これは、2000年の成績とそれほど変化しておらず、安定的な成績を維持しております。

帝京大学での現在までの成績ですが、全国平均より良好な結果となっています。手術中に精巣側の精管から精子が確認できた場合は、ほぼ全例で術後精液の中に精子が確認されました。その理由として、時間はかかりますが3層縫合を行なっているからだと考えています。

手術中に精子が確認できなかった場合は、残念ながら術後の精子出現の確率は低くなります。その際には精巣内精子を回収するため後日TESEを行うことがあります。

またバセクトミーしてからつなぐまでの時間ですが、一般的に理解されているのはバセクトミー後の期間が長ければ長いほど、開通率が落ちるというものでした。しかし、最近の報告では10年以上前のバセクトミーの再吻合術でも、熟練した術者が行えば満足した結果が得られます。従って、10年以上前のバセクトミーでも再吻合術を躊躇うことはないということが示唆されます[5]。当院でも35年前にバセクトミーをした方で術後に精子が出現したケースを経験しています。

 

手術後の状況

手術2週間以内に傷の確認、2−3ヶ月後に精液検査をして、精子の出現を確認します。

精管再吻合手術は自然妊娠が期待できる手術です。そうではなくても、ある程度精子が出現したら比較的コストがかからない人工授精を利用して妊娠が可能な場合もあり、コストベネフィットに優れています[6]。しかしながら、全ての人が希望通りに自然妊娠や人工授精で妊娠できるわけではありません。精子が出現しても精子の運動率や濃度が悪く自然妊娠や人工授精では妊娠に至らないケースもあります。また一度出現した精子が再狭窄のため精液中から消えてしまうこともあります。そのため、一つのオプションとして術後数カ月で精液の中に精子が出現したら一度精子を凍結保存することをお勧めしています。

問い合わせ

帝京大学泌尿器科は東京都内の大学病院で男性不妊外来を行っている数少ない病院の一つです。治療をご希望の方は泌尿器科・男性不妊外来で対応しておりますので、電話(泌尿器科外来直通:03-3964-8262)もしくは予約専用電話:03-3964-1498でご予約をお取りください。紹介状がない場合は選定療養費の5400円が必要になります。紹介状がなくても予約は可能です。お問い合わせメールから個別に相談も可能です。

担当医:男性不妊外来 木村将貴

 

参考文献

[1]Brannigan RE. Vasectomy reversal: indications and outcomes. J Urol. 2012 Feb: 187:385-6
[2]Sandlow JI, Nagler HM. Vasectomy and vasectomy reversal: important issues. Preface. Urol Clin North Am. 2009 Aug: 36:xiii-xiv
[3]Horovitz D, Tjong V, Domes T, Lo K, Grober ED, Jarvi K. Vasectomy reversal provides long-term pain relief for men with the post-vasectomy pain syndrome. J Urol. 2012 Feb: 187:613-7
[4]Taniguchi H, Iwamoto T, Ichikawa T, et al. Contemporary outcomes of seminal tract re-anastomoses for obstructive azoospermia: a nationwide Japanese survey. Int J Urol. 2015 Feb: 22:213-8
[5]Grober ED, Karpman E, Fanipour M. Vasectomy reversal outcomes among patients with vasal obstructive intervals greater than 10 years. Urology. 2014 Feb: 83:320-3
[6]Lee R, Li PS, Goldstein M, Tanrikut C, Schattman G, Schlegel PN. A decision analysis of treatments for obstructive azoospermia. Hum Reprod. 2008 Sep: 23:2043-9