前立腺がん治療後の性機能障害について

前立腺癌手術後の勃起機能の変化

前立腺がん治療後は勃起機能が損なわれ勃起障害(ED)になる可能性があります。現在、ダビンチによるロボット手術が性機能温存に一定の効果を上げていますが、それも完ぺきではありません。術前の性機能までに回復することは、残念ながら想定しているよりも低いとされており、実際にロボット手術に期待をしていた分、性機能の低下が予想以上で後悔している患者さんが一定頻度で出現するという報告があります[1]。一方で、小生が行った研究では術後性機能が低下してもさほど気にならない方もいるようで、人によって術後性機能障害の捉え方は様々です[2]。

下記の図は凡その性機能の変化を表したものです。手術療法は術後早期に性機能が低下します。その後性機能は6ヶ月から1年かけて徐々に回復しますが、なかなか術前の状態に戻ることは難しいとされています。この図のもとである論文は検討している症例の年代が古いため、開腹手術での治療成績です[3]。現在のロボット手術の時代では術後の性機能回復はもっと良いかもしれません。しかし、前述したように完全に回復することは一部の症例に限られると思われます。

前立腺癌手術後の射精機能の変化

射精に関して、前立腺全摘除術では精嚢を前立腺と一緒に取ってしまうので、射精に必要な精嚢の収縮が起こりません。すなわち、射精しなくなります。これも忘れてはいけない手術後の重要な性機能障害の一つです。オルガスム(絶頂感)に関しては残る方との残らない方がいますが、術前に予測することは困難です。射精時に尿が漏れることがあるので、そのような場合はコンドームを使用することをお勧めします。

放射線治療と手術の性機能に対する影響の違い

放射線治療後の勃起障害も同様に、勃起神経や勃起に関係する血管に放射線が当たることから、勃起機能の低下は避けられません。図からも判るように手術に比べると性機能の低下はマイルドですが、徐々に低下していくとされています。手術と違い射精は保たれますが、ホルモン治療を併用することが多いため性欲が減退します。

前立腺の手術では、勃起神経を温存できた場合は性機能がある程度もとに戻る症例が散見されますが、放射線治療をした方では放射線前後のホルモン治療の影響も相まって、長期的にみると多くの症例で性機能障害を認めます。個々の症例のことなので一概には言えませんが(平均化された上の図では表しにくい)、性機能の温存に重きを置くならば、熟練した術者が行うロボット手術で勃起神経を温存できた場合、手術のほうが放射線治療よりも勃起機能を保てるチャンスがあるかもしれません。放射線治療でも、外照射や密封小線源療法単独か、それにホルモン治療を加えるかによっても性機能の変化は異なります、特に、ホルモン治療では性欲が著しく減退しますので、そのようなことを気にする方はご相談が必要です。いずれにしても治療前に主治医とよく相談することが重要です。

前立腺癌手術後に起こる勃起機能低下がお悩みであれば

性機能の温存は前立腺がんを治療された後に引き続き生活の質を保つため、重要な要因の一つと考えております[4]。特に、術前にアクティブな性生活があり性機能を維持していた方は術後の性機能障害は気になるところです。そのためにも主治医や性機能専門医による術前の説明、術後のフォローが大事です。病院の選択としては放射線治療から勃起神経温存ロボット手術まで、前立腺がんに対する様々な治療選択肢を用意しているところが良いと思います。同時に治療後の性機能障害や尿失禁をフォローするための体制と豊富な治療選択肢もあれば万全です。

性機能専門医である木村は、参考文献[2,4]に示したように前立腺癌手術後の性機能の臨床研究を長年にわたり行ってきました。その経験からロボット補助下前立腺全摘除術(Robot-assisted radical prostatectomy: RARP)術後に早い段階で性機能外来で陰茎リハビリテーションおよび積極的な勃起補助治療を行っています。

なぜこれだけ熱心に術後の性機能をフォローするかというと、良い治療というものは、手術を行うだけではなく術後合併症から目を逸らす事なく、術後合併症を如何にカバーできるかが重要だと考えているからです。これまで私は他院でRARPを行ったかたの術後勃起障害を多く診察させていただきました。主治医には言えずに悩んで来院される方が多数いる中で、性機能診療ができることのアドバンテージを実感しています。

当科では術後の勃起機能回復のためのカウンセリング、PDE5阻害薬治療、陰茎海綿体自己注射など、様々なオプションを用意しています。ロボット補助下前立腺全摘除術(RARP)を考えているが手術後の勃起機能が気になる方、他院で前立腺癌手術をされたあとの勃起障害の治療希望など、術後の性機能がご心配な方は性機能外来を電話でご予約、もしくは相談メールからお気軽にご相談ください。

もし既に前立腺癌に対する手術を行い、術後6ヶ月以降で薬物治療(バイアグラ®︎、レビトラ®︎、シアリス®︎)の効果がない方は以下の記事をお読みください。

薬の効かない勃起障害(薬剤抵抗性ED) ー傾向と対策ー

文責 木村将貴

参考文献

[1] Schroeck FR, Krupski TL, Sun L, et al. Satisfaction and regret after open retropubic or robot-assisted laparoscopic radical prostatectomy. Eur Urol. 2008 Oct: 54:785-93

[2] Kimura M, Banez LL, Polascik TJ, et al. Sexual bother and function after radical prostatectomy: predictors of sexual bother recovery in men despite persistent post-operative sexual dysfunction. Andrology. 2013 Mar: 1:256-61

[3] Resnick MJ, Koyama T, Fan KH, et al. Long-term functional outcomes after treatment for localized prostate cancer. N Engl J Med. 2013 Jan 31: 368:436-45

[4] Kimura M, Banez LL, Schroeck FR, et al. Factors predicting early and late phase decline of sexual health-related quality of life following radical prostatectomy. J Sex Med. 2011 Oct: 8:2935-43