先月JCOにテストステロン補充療法と前立腺癌の関係について大規模なケースコントロールスタディが発表されました。
original article: Testosterone Replacement Therapy and Risk of Favorable and Aggressive Prostate Cancer.
以下の図は上段(a)が古典的なテストステロン依存性の前立腺癌モデル、下段(b)が新しい考え方のsaturation curveです。興味深いことに矢印で示しているsaturation pointは大凡去勢域であること、つまりテストステロン濃度にしてみれば50ng/dl以内の範囲でテストステロン依存性の前立腺癌増殖が起こっており、それ以降は腫瘍の進行はプラトーになっています。このような背景を踏まえ、今回の論文を読んでみます。
スェーデン人を対象としたこの研究は、38570人の前立腺癌患者と191460人のコントロールグループを母集団としています。38570人の前立腺癌患者の中でテストステロン補充療法をしていたのは1%の284人、対してコントロールグループでは1%の1378人であり、この2群を比較しています。
結果ですが、テストステロン補充療法と前立腺癌リスクは認めませんでした。さらに多変量解析では、テストステロン補充療法をしていた患者の方が、悪性度の低い前立腺癌の割合が高く、逆に悪性度が高い前立腺癌となるリスクが低かったようです。
以上の結果はあくまで欧米人によるデータなので、日本人(アジア人)がこのような結果になるかは不明です。しかし、これほどの大規模のスタディーでテストステロン補充療法が前立腺癌に悪影響どころかリスクの軽減になることが示唆されたことは重要なことだと思います。
そもそも本邦ではテストステロン補充療法の患者さんが少ないため、解析はなかなか大変かもしれません。しかし日本においてもデータが出てくれれば、様々なことが分かってくると思われます。特に現在の診療の手引きではPSA値が2ng/dl以上はテストステロン補充療法の除外基準になっており、多くの患者さんが治療機会を失っているのを実感しています。以上のことを考えると、PSA2以上でART(ホルモン補充療法)をしてはいけないというのは根拠が薄いような印象なので今後は見直されるべきと思います。