精索静脈瘤に対する顕微鏡下低位結紮術

精索静脈瘤にはどのような手術方法があるのでしょうか?

精索静脈瘤に対して現在本邦で行われている手術は大きく分けて4種類あります。(精索静脈瘤の原因と対処法についてはこちらのページをご覧ください)

高位結紮術 へそ脇あたりの腹部の切開で腎臓に近いほうの精巣静脈を縛る方法。
低位結紮術 そけい部(足の付け根のあたり)の小切開で精巣に近い方の静脈を結紮する方法。
腹腔鏡下手術 腹腔鏡を使っておなかの中の精巣静脈を縛る方法。
経皮的静脈塞栓術 放射線科で精巣静脈に塞栓物質(血管の中にコイルなどを)を詰める方法。

この中でも小さな皮膚切開で顕微鏡を使用して手術する「顕微鏡下低位結紮術」が確実に静脈の切断とリンパ管、動脈の温存が可能なことから、一番手術成績が優れており、体の負担が少なく、精巣萎縮、陰嚢水腫などの合併症も少ないとされています[1-3]。

当院の精索静脈瘤手術法は?

当院ではすべての症例で顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術を局所麻酔もしくは全身麻酔で行っています。この方法は顕微鏡手術のトレーニングが必要であり高度な技術が必要であり実施可能な施設が限られます。局所麻酔でも皮下麻酔、精索ブロック注射によって痛みは完全に無くなりますが、手術中に睾丸が引っ張られるような違和感があります。皮膚切開の場所は図のように足の付け根あたりから少し上の場所を2.5㎝程なので、手術後に傷は陰毛に隠れて目立たなくなります。

皮膚切開の位置

手術では切開創から精索を持ち上げて、これを顕微鏡下で細かい静脈を結紮し、動脈、リンパ管を温存します。動脈を可能な限り温存するため手術中には超音波ドップラー血流計を使用しています。

当院の手術用顕微鏡にてマイクロ手術を行います。

顕微鏡下低位結紮術は日帰り手術も可能なほど低侵襲な手術ですが、難易度に個人差があり術者によって成績が大きく変わる特殊な手術です。泌尿器科医は本来顕微鏡手術のトレーニングを受けていません。精索静脈瘤の顕微鏡下低位結紮術術を満足なレベルで執刀するには医師として早い段階で顕微鏡手術のトレーニングを受け、さらにその後も経験を積むことが要求されます。このようなキャリアデザインは一般的な泌尿器科医のそれとは一線を画しており、顕微鏡下精索静脈瘤手術を十分に経験した泌尿器科医は日本全国でも非常に少ないと思います。

顕微鏡で見た拡大像。高倍率で静脈を結紮、動脈とリンパ管は残します。

時間節約のために動脈・リンパ管の温存が不十分になってしまうと、本来の手術の意味がなくなります。当院では内精動脈、外精動脈、精管動脈の3つを温存するように心がけ、静脈瘤残存の原因にもなる外精静脈の逆流も処理しており確実な手術を行っています。術者は年間100人弱の顕微鏡下低位結紮術を経験していますが、前述のように丁寧な手術を行うことによって現在平均1時間から1時間半で安定しています。

精索静脈瘤手術の目的は動脈・リンパ管の温存と静脈の結紮なのですが、術者によって温度差があり簡単に済ませてしまうこともできます。したがって手術を決意した際は十分な経験と情熱があり時間と労力をかけることができる医師を選択すべきでしょう。また当院のような症例数の多い施設(high volume center)においては手術成績が安定し合併症のリスクが少なくなることが分かっています。年間10例未満の施設は技術的な課題があると思います。

手術のリスクは?

一般的に経過観察可能な内出血が50人に1人、陰嚢水腫、精巣萎縮が1%、再発や残存がまれにあります。現在まで合併症のため再入院、再手術を行なった方はおりません。

顕微鏡下精索静脈瘤手術の術後経過は?

傷は溶ける糸で表面を縫いますので、外来での抜糸は必要ありません。低位結紮術だと術後の痛みは軽くて済みますので、手術翌日から仕事が可能となります。数日間痛み止めと抗生剤を内服していただきます。手術3日目に傷表面のテープを剥がしてください。7日間は激しい運動、飲酒、入浴を控えてください(シャワーは術当日から可)。

費用に関して

全身麻酔による入院2泊3日手術は保険診療(15万円)、局所麻酔による日帰り手術は自費診療(22万円)で行なっています。人工授精、体外、顕微授精などの生殖補助技術と並行して精索静脈瘤の治療を行うことにより、不妊治療のトータルでかかるコストが低くなるという事が報告されています[4]。したがって、明らかな静脈瘤がある場合は、不妊治療に静脈瘤手術を加えるのが治療コスト面でも良い方法です。

治療効果は?

精索静脈瘤手術が精液所見の改善に寄与することは、強い根拠をもって証明されており、7割を超える患者さんが、術後の精液所見が改善しています。ただし、自然妊娠率を改善するかどうかは、臨床試験の難しさもあることから、完全には証明されていません[5]。また体外受精などの生殖補助医療と同時に静脈瘤の治療をする場合は、その効果が早期に現れるのかどうかが問題となります。最近の研究では、静脈瘤手術後5ヶ月で精液所見が改善するという報告[6]、術後3ヶ月で精子のDNAの質が改善するという報告[7]などがあり、クリニックで不妊治療をされているカップルにもメリットがあることが示されています。ただしこのトピックに関してはいまだ統一された見解はないので今後の更なる研究が必要でしょう。以下のグラフは当院での顕微鏡下低位結紮術のデータです。手術3ヶ月で改善の傾向を認め、6ヶ月では明らかに精子濃度や運動率が改善しています。

術後精液検査は有意に改善


精索静脈瘤に関する最近の話題


患者さんへのメッセージ

  • 男性因子による不妊症は想像しているよりも多いので女性側の負担を減らすためにも、ぜひ積極的に受診してください!
  • 診断から手術執刀まで全て経験豊富な生殖医療専門医(木村)が担当します。泌尿器科医として初期の段階からこの手術に関わってきました。留学での経験も生かしコーネル大学の原法に基づく方法をアレンジしています。
  • 精索静脈瘤の90%は左側にできます。もしクリニックで両側精索静脈瘤と診断された場合は不必要な手術を受ける可能性があります。その前に当院を受診してみてください。
  • 不妊治療はスピード感が重要です。外来受診から手術まで極力お待たせしないように心がけています。メール対応できますので、お気軽にお問合せください。
  • 平日受診が難しい方のために、土曜日外来を開設しております。是非ご活用ください。

問い合わせ

精索静脈瘤の診断、治療をご希望の方は泌尿器科・男性不妊外来で対応しておりますので、電話(泌尿器科外来直通:03-3964-8262)もしくは予約専用電話:03-3964-1498でご予約をお取りください。紹介状がない場合は選定療養費の5400円が必要になります。紹介状がなくても予約は可能です。

メールでの相談を希望の場合は「相談メール」のページからフォームに入力してください。適宜お返事いたします。

男性不妊診療は木村将貴が担当いたします。

参考文献

[1] Kimura M, Nagao K. Role of varicocele repair for male infertility in the era of assisted reproductive technologies. Reproductive Medicine and Biology. 2014: 13:185-92

[2]       Hopps CV, Lemer ML, Schlegel PN, Goldstein M. Intraoperative varicocele anatomy: a microscopic study of the inguinal versus subinguinal approach. J Urol. 2003 Dec: 170:2366-70

[3]       Cayan S, Shavakhabov S, Kadioglu A. Treatment of palpable varicocele in infertile men: a meta-analysis to define the best technique. J Androl. 2009 Jan-Feb: 30:33-40

[4]       Schlegel PN. Is assisted reproduction the optimal treatment for varicocele-associated male infertility? A cost-effectiveness analysis. Urology. 1997 Jan: 49:83-90

[5]       Baazeem A, Belzile E, Ciampi A, et al. Varicocele and male factor infertility treatment: a new meta-analysis and review of the role of varicocele repair. Eur Urol. 2011 Oct: 60:796-808

[6]       Colpi GM, Carmignani L, Nerva F, et al. Surgical treatment of varicocele by a subinguinal approach combined with antegrade intraoperative sclerotherapy of venous vessels. BJU Int. 2006 Jan: 97:142-5

[7]       Li F, Yamaguchi K, Okada K, et al. Significant improvement of sperm DNA quality after microsurgical repair of varicocele. Syst Biol Reprod Med. 2012 Oct: 58:274-7