近年、プロペシア®︎が精子へ影響があるという記事を目にします。一般泌尿器科診療においてもプロペシア®︎で性欲低下や勃起機能低下を起こすことがあり、話題となる薬です。
ことに男性不妊では精液所見に悪影響を及ぼすことが報告されており、男性不妊外来で服用をチェックする必要のある薬です。
今回は、Fertility and sterilityという不妊学の代表的な雑誌から、プロペシア®︎(以降はフィナステリドと表記)の中止によって精子所見がどのように変化するかを報告した論文がありましたので紹介いたします。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0015028213027866
マウントサイナイ病院の泌尿器科からの報告です。早速みていきましょう。
「研究の背景」
フィナステリドはテストステロンからDHT(デヒドロテストステロン)への変換を阻害する薬です。アメリカでは最初は前立腺肥大症の薬として登場しましたが、1997年からAGA(男性型脱毛症)に対する治療薬として承認されました(日本ではAGAのみに適応)。
この適応拡大によって多くの生殖年齢の男性がこの薬を服用するきっかけになりました。そして近年になりフィナステリドの服用により精液所見が悪化し、服用中止により2-3ヶ月程度で改善することが報告されています。今回の論文ではさらに詳細にフィナステリド中止後のホルモンや精液所見の変化を研究しています。
「結果」
男性不妊外来を受診した4400人のうち、フィナステリドを服用していた割合は27名(0.6%)でした。その中で、今回の研究で検査できたのは14名だったようです。平均年齢は37歳、フィナステリドの平均継続期間は57.4ヶ月、中止期間は6.45ヶ月でした。
前後で精液検査を実施したところ、精液量は変わりませんでしたが、精液濃度、運動率、奇形率の変化は以下の結果となりました。
まず全体で見ると精子濃度についてフィナステリド服用中は3234万/mLであるのに対し、中止後は1億2762万に増加しています。運動率は16.84%から25.91%に上昇していますが、有意差はついていません。奇形率についてはほとんど変わりませんでした。また内服時に精子濃度が500万/mL以下、500−1500万/mL、1500万/mL以上の3群に分けて検討していますが、どの場合でも濃度は明らかに増えており、特に500万/mL以下の高度乏精子症の方に顕著でした。
「まとめ」
- フィナステリドの内服中止で精子濃度は劇的に回復する。
- 統計的に有意差はないが運動率も若干改善する。
- 精子形態(奇形率)は中止してもあまり変化なし。
これらの結果を見てみると、著者たちは精子濃度が1500万/mL以下の人たちと限定していましたが、やはりどんな人でも妊活中のプロペシア服用はやめておいた方が良いのでしょう。さらに性機能も低下も招くことを考えると尚更です。
ちなみに最近はザガーロ®︎(デュタステリド)をAGAの第一選択肢にすることも多いようですが、これもプロペシアと同系統の薬ですので、同様の副作用は起こり得ると思います。これについても、今後論文を見つけ次第報告したいと思います。