顕微授精前の精索静脈瘤手術は妊娠率と生児獲得率を向上させる

最近、顕微授精前の乏精子症もしくは非閉塞性無精子症に対して精索静脈瘤手術が妊娠率と生児獲得率を向上させることがシステマティックリビューとメタアナリシスで明らかになりました。

乏精子症においては有意差こそつきませんでしたが妊娠率が改善する傾向が認められ、生児獲得率は有意に改善しています。精索静脈瘤手術によるDNA fragmentation(精子DNAの傷つき具合)の改善が妊娠後期の成績に関与しているため、このような結果になっているとの考察です。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27526630

長らく静脈瘤手術の意義に関しては権威ある医学雑誌である2003年にLancetに掲載されたEversの論文がきっかけで、不妊治療に関して効果が無いという認識が主に産婦人科の間でされて来ました。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12788571

しかしこの論文は様々な問題があったことが発覚しています。例えば、臨床的な精索静脈瘤以外の症例や精液所見が正常な症例がまざっていたりして、正確なデータが取れていない可能性があり、後になって批判を浴びることになります。

同様の流れでコクランレビューという権威のあるレビューにも精索静脈瘤は意味がない的なことを書かれてしまいました。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19160180

しかし、2011年に発表されたBaazeemらの論文によって、精索静脈瘤手術が精液所見を改善することは明白になり、だいぶ風向きが変わって来た様に思います。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21733620

そして今回の報告で、精液所見が悪く体外受精や顕微授精をするようなカップルは精索静脈瘤手術を先にしたほうが、生児獲得率が上昇することが明らかになりました。今後、この論文を論拠として、ますます精索静脈瘤手術、特に顕微鏡下低位結紮術の意義が高まると思います。

木村将貴