慢性精巣痛の研究論文が泌尿器科紀要に掲載されました

慢性精巣痛(Chronic testicular pain)は、留学時代に初めてその疾患概念を認識し、帰国後はその診断と手術法である顕微鏡下精索徐神経術の実践を行ってきました。日本では、教科書にすら記載されておらず泌尿器科医でも認識している先生が少ない疾患でもあり、今回の論文で多少理解が深まれば良いかと思っています。

論文の内容を以下にまとめます(Microsofr Copilotを用いて作成)

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/290650

この論文は、帝京大学医学部泌尿器科学講座の研究チームによるもので、慢性精巣痛(CTP)精索静脈瘤(VC)による陰嚢痛の比較を行っています。以下に主要なポイントをまとめます。

研究の背景と目的

  • 慢性精巣痛(CTP): 3ヶ月以上続く精巣の痛みで、原因が不明なことが多い。
  • 精索静脈瘤(VC): 陰嚢内の静脈が拡張し、痛みを引き起こす。
  • 目的: 短縮版マギル痛み質問紙(SF-MPQ)を用いて、CTPとVCによる陰嚢痛の臨床的な違いを評価すること。

方法

  • 対象者: 2018年から2022年にかけて陰嚢痛を訴えて受診した77名の患者。
    • CTP群: 19名
    • VC群: 58名
  • 評価項目: 婚姻状況、喫煙・飲酒習慣、BMI、疼痛持続期間、併存疾患(Charlson Comorbidity Index)、NRS(Numerical Rating Scale)、VRS(Verbal Rating Scale)、SF-MPQ。

結果

  • 患者背景:
    • CTP群はVC群よりも年齢が高く、既婚率が高い。
    • CTP群は併存疾患のスコアが高い。
  • 疼痛評価:
    • CTP群はVC群よりもNRSとVRSのスコアが高い。
    • SF-MPQでは、CTP群はVC群よりも強い痛みを感じていることが示された。
    • 特にCTP群は「ズキンズキンと脈打つ痛み」「突き刺されるような痛み」「焼けつくような痛み」などの神経障害性疼痛を強く感じている。

この図は、短縮版マギル痛み質問紙(SF-MPQ)を使用して、慢性精巣痛(CTP)精索静脈瘤(VC)による痛みを比較したものです。

図の説明

  • 横軸: 質問紙の項目(Q1~Q15)
    • Q1: ズキンズキンと脈打つ痛み
    • Q2: ギクッと走るような痛み
    • Q3: 突き刺されるような痛み
    • Q4: 強い痛み
    • Q5: 締め付けるような痛み
    • Q6: 食い込むような痛み
    • Q7: 焼けつくような痛み
    • Q8: うずくような痛み
    • Q9: 重苦しい痛み
    • Q10: さわると痛い痛み
    • Q11: 割れるような痛み
    • Q12: 心身ともにうんざりするような痛み
    • Q13: 気分が悪くなるような痛み
    • Q14: 恐ろしくなるような痛み
    • Q15: 耐え難い、身の置き所がない痛み
  • 縦軸: 痛みの強度(0~3)
    • 0: 痛みなし
    • 1: 少し痛い
    • 2: 痛い
    • 3: 非常に痛い

結果の概要

  • CTP群(青色のバー)とVC群(赤色のバー)の痛みの強度を比較しています。
  • CTP群は、ほとんどの項目でVC群よりも高い痛みの強度を示しています。
  • 特に、Q1(ズキンズキンと脈打つ痛み)Q2(ギクッと走るような痛み)Q3(突き刺されるような痛み)Q4(強い痛み)Q7(焼けつくような痛み)Q10(さわると痛い痛み)で顕著な差が見られます。
  • 感情的な痛みに関する項目(Q12~Q15)でも、CTP群VC群よりも高いスコアを示しています。

解釈

  • CTPVCに比べて、より強い痛みと広範な痛みの種類を経験していることがわかります。
  • 感情的な痛みの側面でも、CTPの患者はより大きな負担を感じていることが示されています。

この図は、CTPVCの痛みの質と強度の違いを視覚的に示しており、CTPの患者がより深刻な痛みを経験していることを明らかにしています。

考察

  • CTPはその多くが原因不明であり、診断や治療が難しいため、患者はしばしば医療機関を転々とすることになる。
  • 精神的負担も大きく、適切な診断と治療が求められる。
  • SF-MPQはCTPの疼痛評価に有用であり、VCとの鑑別にも役立つ。

結論

  • CTPはVCよりも強い痛みと精神的負担を伴うことが多い。
  • SF-MPQを用いることで、CTPの詳細な疼痛評価が可能となり、適切な治療方針の決定に寄与する。

この研究は、CTPとVCによる陰嚢痛の違いを明確にし、それぞれに適した診断と治療法を提案するための重要な知見を提供しています。