男性更年期(LOH症候群)

男性更年期(LOH症候群)とは

「全身の疲労感や意欲の減退、ED(勃起障害)など、これまで〝年齢のせい〟と片付けられてきた中高年男性に特有の心身の悩みが、近年「加齢男性性腺機能低下症候群:LOH(late-onset hypogonadism)症候群)」と呼ばれ、注目を集めています。

その原因は男性ホルモン(テストステロン)の低下です。男性ホルモンは20歳代にピークを迎えてから徐々に低下していき、加齢とともに症状が現われます。

男性ホルモンは第二次性徴を促す物質として知られますが、成人以降も、筋肉や骨の形成や、造血機能や性機能、脂質代謝など、全身のさまざまな生理的な活性を促す働きを担っています。また、攻撃性といったアクティビティを高める作用があることも知られています。たとえば、イギリスの証券会社の男性社員を調べた研究では、利益をたくさんあげる人ほど男性ホルモン量が高かったという報告もあります。一般的に男性ホルモン量が高いのは、芸術家や音楽家など、創造的な仕事、生き方をしている人たちで、60歳や70歳で高い人もいます。逆に、教師、医者、銀行員といった社会的な規範に縛られやすい職業、ハメを外すことが苦手な人たちは男性ホルモンが低いといわれています。

LOH症候群は身体的には全身の疲労感や倦怠感、性欲低下、ED(勃起障害)、不眠、肩こりなど、精神的には気力の衰え、集中力の低下、イライラ、抑うつなど、症状は多岐にわたります。しかし、一般の病院へ行っても「異常なし」。自分の体はどうなったのか。そんな方は 「LOH症候群:男性の更年期障害」を疑ってみてはどうでしょうか?

過剰なストレスが男性更年期の引き金に

職場の人間関係やリストラの不安、家庭内不和、介護の負担などが引き金要因となることも少なくありません。40歳代以降は、責任の重い役職に就き、仕事のプレッシャーに苦しむ局面も増えます。年齢とともに男性ホルモンが低下するのはごく自然なプロセスですが、それに職場や生活環境の大きなストレスが加わることで、男性ホルモンや全身の生理機能や精神活動に影響を及ぼすと考えられます。なりやすいタイプとしては概して几帳面、ストレスをためやすい人といえるでしょう。外来の経験からいうと、主に身体を使う職業の人の受診は少なく、デスクワークの多い職業や管理職の方が圧倒的に多い傾向があります

テストステロンの測り方

テストステロンは起床時から午前11時までがピークとなるので、午前中に採血することが基本となります。テストステロンには総テストステロン値と遊離テストステロン値があります。日本人のデータでは遊離(フリー)テストステロンは年齢とともに低下する傾向にありますが、海外で使用されているものは総テストステロン値になります。総テストステロン値が300-350ng/dL程度で症状がある場合はテストステロン補充療法をすることにより症状の改善が期待できます。またテストステロンが高いかたでも、男性更年期症状があればテストステロン補充で症状が改善することがあり、その人によって快適なテストステロン値というのは違う可能性があります。

テストステロンの増やし方

肉体的アプローチとしては、運動、十分な睡眠、減量、食生活の改善、糖質制限などがあり、精神的アプローチとしてストレスを溜めない、自分の好きなことをしてみる、魅力を感じる女性との接触などがあります。

運動に関してはランニングなどの有酸素運動と、筋肉トレーニングなどの無酸素運動がありますが、どちらもバランスよく行うのが良いと思います。その理由の一つとして、脂肪の中にはアロマターゼというテストステロンを女性ホルモンであるエストロゲンに変換する酵素が多く含まれているため、体内の脂肪を減らすことが求められるからです。有酸素運動で内臓脂肪を燃焼させることにより、テストステロンの分解が減少し、結果としてテストステロンが増えることが期待されます。また筋トレは過度な負荷をかけない程度(体の活性酸素が過剰にならない程度)の筋トレをすれば、テストステロンの良い循環ができます。運動すると筋肉量を維持するためにテストステロンは分泌され、同時に筋肉自体がアンドロゲンレセプターを持ち、テストステロンを消費します。過度の運動を繰り返しすると、体内の活性酸素が増加して、結果として酸化ストレスが増え、テストステロンの循環が滞る恐れがあります。ですから、運動はしないよりした方が当然良いのですが、疲れ切ってしまうまでは行わず、適度に運動することが大切です。

人間の行動とテストステロンは密接に結びついていることをお伝えします。ストレスを受けると視床下部の機能が低下し、精巣からテストステロンがうまく出せなくなります。現代人の生活を考えると、ある程度のストレスが毎日のように続くことは避けれられません。従って、これを何とか回避する術を身につけることが、テストステロンを正常に保つ秘訣です。テストステロンの増やし方と言うより、テストステロンの減少を防ぐ予防法ですが、どんな方法でも良いので、自分が青年時代のように熱中できること、夢中になれることを見つけると良いでしょう。一つの物事に興じることで、テストステロンを正常に保ちましょう。もちろんテストステロンは性ホルモンですから、異性との関係に影響されることは当然と言えます。ですから、あまり異性と関わらなくなっているような方や、セックスレスなど夫婦のマンネリを自覚している方は、敢えてポジティブに行動することは需要です。

 男性更年期症状の改善方法

一旦テストステロンは低下してしまうと肉体的にも精神的にも様々な症状が現れることがあります。大きく影響するのは性機能ですが、性欲がなくなってしまうのでマスターベーションの回数も劇的に減ってしまいます。こうなってしまうと、勃起障害(ED)も併発していることが多く、性行為どころではありません。

まずは出来る自助努力として、少しでも良いから体を動かすことだと思います。しかし、男性更年期の診断基準に入ってくるような低テストステロン血症のかたは、能動的に何かを行動しようとすることもおっくうになっている方が多いので、男性更年期外来やメンズヘルス外来などでテストステロン値を計測することをお勧めします。患者さんの中には既にメンタルクリニックで軽症のうつ病を診断され、治療されている方も多いのですが、同時にテストステロンが低下している方もいらっしゃいます。そのような場合は、うつ病の治療に加えて、テストステロンを補充することにより、より治療効果が得られることが分かっています。

男性更年期外来でできること

テストステロン値が正常で強いうつ症状がある場合は、心理カウンセリングやメンタルクリニックをお勧めすることもあります。またテストステロン正常値でも他の症状がある場合は、漢方療法を試すこともあります。テストステロン値が明らかに低下している場合は、テストステロン補充療法をお勧めいたします。具体的には3週間毎のテストステロン注射を実施し、2−3ヶ月後に効果を判定します。効果があり継続希望の場合は、テストステロンの注射か軟膏を継続することになります。効果が実感できる方は初期の数ヶ月で症状が改善しています。この治療は、下垂体や染色体異常などの病的な状態でなければ、男性更年期の診断となり自費診療になります。完全に回復するまで1年前後経過を見ますが、最終的にはテストステロン補充なしでもやっていけるまで回復する方が多い印象です。治療を終了した一部の方は、十分に回復しないためテストステロン補充療法を再開する方もいらっしゃいます。

男性更年期が心配な方は、まず男性更年期外来を受診して検査を受けてみましょう。

 

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