精索静脈瘤は、男性不妊の原因としてよくみられる病気のひとつです。精索静脈瘤があると、精子の数や運動率が低下したり、精子の質が悪くなったりすることがあります。
一方で、精索静脈瘤があっても精液検査に大きな異常がない方もいます。つまり、同じように精索静脈瘤があっても、精液所見が悪化する方と、保たれる方がいることが知られています。
今回の研究では、この違いに「精液中の抗酸化力」が関係している可能性について検討しました。
研究の対象
本研究では、臨床的に精索静脈瘤と診断された60名の男性を対象としました。
このうち、22名は精液所見が正常で、陰嚢痛をきっかけに受診された方でした。残りの38名は、精子濃度や精子運動率などに異常を認める男性不妊症の方でした。
それぞれの方について、精液検査に加えて、血液中と精液中の総抗酸化能、いわゆるTACを測定しました。
主な結果
精液所見に異常がある方では、精液中の抗酸化力が低い傾向が認められました。
特に、精液中の抗酸化力が高いほど、精子濃度、精子運動率、総運動精子数が良好であるという関連がみられました。なかでも、総運動精子数との関連が最も強く認められました。
一方で、血液中の抗酸化力は、精液所見との明らかな関連を示しませんでした。
このことから、精索静脈瘤による精液所見の悪化には、全身の抗酸化力よりも、精液中の局所的な抗酸化力が関係している可能性が示されました。
なぜ抗酸化力が重要なのか
精子は、酸化ストレスの影響を受けやすい細胞です。
酸化ストレスとは、体内で発生する活性酸素が増えすぎたり、それを抑える抗酸化力が不足したりすることで、細胞にダメージが起こりやすくなる状態を指します。
精索静脈瘤では、精巣周囲の温度上昇や血流のうっ滞などにより、酸化ストレスが増えることが精子形成に悪影響を与えると考えられています。
精液中には本来、精子を酸化ストレスから守るための抗酸化物質が含まれています。今回の研究結果から、精液中の抗酸化力が十分に保たれている方では、精索静脈瘤があっても精液所見が比較的保たれやすい可能性が考えられました。
抗酸化力を保つためにできること
抗酸化力を高める方法として、食事や生活習慣の改善が大切です。
ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、セレン、コエンザイムQ10などを含む食品を意識して摂取することや、禁煙、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理などが抗酸化力の維持に役立つ可能性があります。
ただし、サプリメントや抗酸化療法がすべての方の妊娠率や出生率を改善するとは限りません。精索静脈瘤の程度や精液所見、年齢、不妊期間、女性側の因子などを総合的に判断することが重要です。
まとめ
今回の研究では、精索静脈瘤のある男性において、精液中の抗酸化力が高いほど精液所見が良好である可能性が示されました。
精索静脈瘤があっても、すべての方で精液所見が悪化するわけではありません。その背景には、精液中の抗酸化力の違いが関係している可能性があります。
男性不妊の診療では、精索静脈瘤の有無だけでなく、精液検査の結果や酸化ストレスの影響も含めて、治療方針を検討することが大切です。
論文情報
本内容は、以下の論文に基づいています。
木村将貴、武井紀樹、柳田和己、吉村厳、高田伊知郎、金子智之、中川徹
精索静脈瘤に関連する精液所見悪化の病態生理
―精漿および血清中の総抗酸化能の評価―
泌尿器科紀要 71巻5号 137-143頁、2025年
論文はこちらからご覧いただけます。
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/items/d5b4d28f-8c07-4ca0-91a3-d3d0f9414553
