この論文はUrologyというアメリカの泌尿器科系の雑誌に2018年に掲載されたものでサブクリニカル静脈瘤を検討した数少ない論文の一つです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29981299
サブクリニカル精索静脈瘤(subclinical varicocele)というのは表面からは見えない、触らない精索静脈瘤のことで主に超音波検査によって発見される精索静脈瘤のことです。一方クリニカル精索静脈瘤(clinical varicocele)というのは診察した際に腫瘤として視認できる、もしくは触ることができる精索静脈瘤のことでグレード1から3まで分類されます。では早速内容を見てみましょう。
研究デザイン
・テキサス ヒューストンにあるベイラー医科大学からの論文 2018年
・顕微鏡下で精索静脈瘤手術をした190症例
・臨床的精索静脈瘤が144例、サブクリニカルが46例
・手術前後の総運動精子数(total motile sperm count: TMC)を評価
・術後にステップアップができたかを評価
図は精液検査の結果です。線が区別しにくいのですが2群を比較検討したら、クリニカルもサブクリニカルも総運動精子数が同等に改善したという結果でした!
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手術後の結果 |
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体外受精レベル |
人工授精レベル |
自然妊娠レベル |
手術前の結果 |
体外受精レベル |
40(49%) |
11 (13%) |
31 (38%) |
人工授精レベル |
4 (13%) |
4 (13%) |
22 (73%) |
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自然妊娠レベル |
9 (11%) |
8 (9%) |
68 (80%) |
表は術後にTMCが改善して精液所見が体外受精(IVF)レベルから人工授精や自然妊娠レベルにup gradeした割合を検討した結果です。ちなみに、この評価方法は臨床に即していて良いですね。
赤色は術後にupgradeしたもので、全体としては静脈瘤手術により改善を認めています。さらに今回の論文の目玉として、サブクリニカルでもアップグレードの割合は変わらず、同様の改善がサブクリニカル群にも認められたということです。
「まとめ」
現行のガイドラインではサブクリニカル精索静脈瘤は手術対象ではありません。しかし実際の臨床(real world)では積極的治療を望む男性不妊患者さんにはサブクリニカルであっても手術を提案することはあると思います。このような論文が積み重なることによってガイドラインも変わってくる可能性もあります。
しかし論文の趣旨を取り違えて過剰診断&過剰治療へ誘導する根拠になる可能性もあります。
この論文が曲解され過剰治療にならないように今後は超音波診断の方法論について議論されるべきかと考えています。
文責 木村将貴