コロナウイルス感染症が予断を許さない状況で、ファイザーおよびモデルナのmRNAワクチン接種が進んでいます。mRNAワクチンは人類が初めて開発したワクチンであり、その副反応や有害事象について懐疑的に考えている方もいると思います。特にワクチンを打つと不妊になるかもしれないという噂もSNS界隈ではまことしやかに囁かれています。
厚生労働省のホームページではワクチンによって不妊になることはないと明言しています。ここには女性において臨床研究は明示されており、mRNAワクチンを接種しても流産率、死産、胎児の発育不全、母体の妊娠高血圧は変わらないということです。
しかし、男性においては基礎研究のデータのみで実際の精液検査に関しては言及されていませんでした。そこで今回は現在のところ判明しているmRNAワクチンが精液所見に与える影響についてお伝えしたいと思います。
今までmRNAワクチン接種後のまとまった精液所見データはpublishされていませんでしたが、2021年7月にJAMAからresearch letterとして報告がありました。今回はこの論文を解説します。
Sperm Parameters Before and After COVID-19 mRNA Vaccination
「研究の方法と結果」
2回目のワクチン接種後には精液量が2.2mlから2.7ml、濃度が2600万から3000万、運動率は58から65%と有意な悪化は認めず、むしろ改善しています。
次の図はCOVID-19ワクチン接種前後の参加者45人の総運動精子数パラメータの変化を示すウォーターフォールプロットです。棒グラフが0より上に伸びていると改善しているし、0より下だと悪化していることがわかります。全体的には上昇に傾いていますね。
またサブ解析として8例はワクチン接種前に精液所見が不良(中央値 850万/mL)であったようですが、ワクチン接種後に精液所見がよくなったのは7例、1例は乏精子症のまま、無精子症までの悪化は認めないということです。
「考察」
この研究の問題点として以下のことが考えられます。
•精液検査だけでは不妊になるかどうかは予見できない
また、サンプリングの問題で季節性変動があったのではないかという指摘もありました。精液検査は冬に悪化し、春に改善するという傾向があります。ワクチン接種前の検体は冬にとられており、接種後の検査は春になるので改善しているのは季節性変動の影響かもしれません。
「まとめ」
この論文を読む限りmRNAワクチンを接種すると精液所見が悪化することはなさそうです。mRNAワクチンの機序的にも、精巣に微量に分布したとしても有害なことはないかと思います。それよりも、妊娠した場合の感染リスクが上回るでしょう。
注意が必要なこととして、副反応で数日間の発熱があった場合は、その後の精液検査が一時的に悪化する恐れがあります。主治医と相談して時間的余裕のあるカップルは特に2回目ワクチン接種後の採卵を1−2周期先に延ばしても良いかと思います。