糖尿病による性機能障害の原因と治療

糖尿病と勃起障害(Erectile dysfunction:ED)

糖尿病になると勃起しづらくなるという印象をお持ちの方も多いと思います。それは真実で、糖尿病は勃起障害の一番高いリスク要因といっても過言ではありません。血糖コントロールが不良であるほど、勃起障害は重症化します。

我々が以前インターネットによるアンケート調査によって、日本全国7710人の勃起時の陰茎の硬さを調査したところ、陰茎の硬さの低下と糖尿病には強い相関を認めました[1]。それでは、なぜ糖尿病と勃起障害が深い関係にあるのか解説して行きます。

糖尿病によるEDと血管内皮障害の関係

糖尿病はその病態として末梢神経障害や血流障害が起こります。神経の問題もありますが、糖尿病性EDの最も大きい原因としては全身の血管内皮細胞障害による動脈硬化が挙げられます。

血管内皮細胞からはNOという物質が放出され、これが勃起の維持に関与します。糖尿病になると、体中の酸化ストレスや糖化最終生成物(AGE)といった老廃物が増加し、そのため血管の内皮障害さらに動脈硬化が起こり、EDをいずれかのタイミングで発症し、最終的には心筋梗塞や脳梗塞になる確率が高くなります。

血管サイズ仮説について

その理由としては、上の図で示した血管サイズ仮説が考えられています。つまり陰茎の動脈のような細い血管から動脈硬化が進み、徐々に血流が悪くなり、最終的にはそれより太い血管が閉塞してしまい脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まる、というシナリオです。

小生がアメリカ留学中に行なっていた動物実験でも、前立腺に放射線を照射した後、時間の経過とともにラットの陰茎動脈の動脈硬化が進み、それと同時に勃起機能が低下していました[2]。これは血管内皮障害が放射線によって起こったためと考えています。

以上より糖尿病の患者さんが勃起障害を発症した場合は、神経障害と血管内皮障害が進行している可能性があります。その際は、積極的に動脈硬化の検査をした方が良いと思いますし、心臓の冠動脈の積極的な検査も必要と考えている研究者もいます[3]。

 

糖尿病性EDと心血管系リスク

同じ糖尿病の方でも、EDがある方とない方では、将来的な心筋梗塞・脳梗塞の発症率、さらには死亡率まで差が出てくるという報告があります[4, 5]。日本人においても同じことが言えるようです[6]。

糖尿病による勃起障害の治療

無症状のED患者の特徴として、前述したように将来的な心血管イベント(脳梗塞や心筋梗塞)の発症予測になるという報告が多くされています。従って、今まで健康であった人がEDになった時は、男性ホルモンのチェックの他に、糖尿病がないか、動脈硬化はないかを調べた方が良さそうです。また薬物治療においてはバイアグラ、シアリス、レビトラといった、いわゆるPDE5iで一定の効果はあります[7]。しかし、重症の糖尿病による勃起障害では有効率は低いとされています。当院ではPDE5iが無効であった患者さんに対しては次のステップとしてプロスタグランジン陰茎海綿体自己注射による治療を積極的に行なっています。

糖尿病による射精障害

糖尿病により末梢神経障害が起こると、射精時に通常起こる精嚢や膀胱頚部の収縮が起こらなくなります。そのため、逆行性射精や無射精がおこり性液量が減少を招きます。治療は難渋することが多いですが、逆行性射精に対する薬物療法が効果を示すこともあります。

これらの診断と治療は性機能外来で行なっており、すべての診療は日本性機能学会で認定された専門医である木村が担当します。ご質問がある方は問い合わせフォームでお願い致します。

参考文献

[1]          Kimura M, Shimura S, Tai T, et al. A Web-Based Survey of Erection Hardness Score and Its Relationship to Aging, Sexual Behavior, Confidence, and Risk Factors in Japan. Sex Med. 2013: 1:76-86

[2]          Kimura M, Yan H, Rabbani Z, et al. Radiation-induced erectile dysfunction using prostate-confined modern radiotherapy in a rat model. J Sex Med. 2011 Aug: 8:2215-26

[3]          Gazzaruso C, Giordanetti S, De Amici E, et al. Relationship between erectile dysfunction and silent myocardial ischemia in apparently uncomplicated type 2 diabetic patients. Circulation. 2004 Jul 6: 110:22-6

[4]          Gazzaruso C, Solerte SB, Pujia A, et al. Erectile dysfunction as a predictor of cardiovascular events and death in diabetic patients with angiographically proven asymptomatic coronary artery disease: a potential protective role for statins and 5-phosphodiesterase inhibitors. J Am Coll Cardiol. 2008 May 27: 51:2040-4

[5]          Inman BA, Sauver JL, Jacobson DJ, et al. A population-based, longitudinal study of erectile dysfunction and future coronary artery disease. Mayo Clin Proc. 2009 Feb: 84:108-13

[6]          Yamada T, Hara K, Umematsu H, Suzuki R, Kadowaki T. Erectile dysfunction and cardiovascular events in diabetic men: a meta-analysis of observational studies. PLoS One. 2012: 7:e43673

[7]          Karlawish JH, Casarett D. Sildenafil for diabetic men with erectile dysfunction. JAMA. 1999 Sep 08: 282:940-1